一つの試金石になるかもしれない、かな?・・・監査法人の交代制について思うこと

粉飾決算でも有名になってしまった某会社が、監査法人を定期的に交代させる制度の導入を検討しているようです。

<東芝>監査法人、交代制に 透明性向上へ検討

(以下、抜粋)

不正会計問題で歴代3社長が辞任した東芝が、決算書類のチェックなど監査業務を行う監査法人について、複数年度で定期的に交代させる制度の導入を検討していることが26日明らかになった。

*****

東芝の現在の監査法人は半世紀以上も同じ法人が務めており、交代制を導入して監査法人との関係を厳格化。監査の透明性を高めて、信頼回復を図る。

*****

金融当局も問題視し、東芝社内でも「監査法人を固定するのは問題」との判断が強まった。日本公認会計士協会によると、監査法人を定期的に交代させる制度がある企業は珍しいという。

*****

東芝は欧州も参考に交代の期間を検討する。ただ、頻繁に交代すると、監査の効率が低下する可能性もあり、9月の臨時株主総会を経て発足する新たな経営体制の下で最終判断する。

かれこれ50年以上もずっと同じ監査法人の監査を受けているとなると、今回の不祥事を受けて上記対応を考えるのは自然かもしれません。

ただ、交代制のメリット・デメリットは「監査される側」にも「監査する側」にもあります。

「監査される側」にとって

メリット

会社としてある程度の緊張感を持つことができる

定期的に監査法人を交代するとなると、当然ながらお互いズブズブの関係になることが難しくなります。関係を構築してもすぐ交代になるので、インチキしようという魔がさす機会はたしかに減るかもしれないな、と。交代の都度「フレッシュな視点」で監査されるという緊張感は出てくるはずです。

「ある程度」としているのは、監査する側もされる側も人間だからです。要するに「人によりけり」かなと。そもそも粉飾する・しないも「人によりけり」ですけどね。

透明性をアピールできる

決算の透明性を、これまで以上に社外に(株主向けにも・投資家向けにも)アピールできるでしょう。

定期的な監査法人交代により、「粉飾なんかしませんし、そもそも難しいじゃないっすか~」みたいなことを言いやすくなるかと(笑)

一度不祥事(粉飾等)を起こした会社や経営者の場合、それでも信用の完全回復は困難でしょうけど。

デメリット

会計処理方法や会計上の見積り等の見解の相違が定期的に発生しうる

会計士間・監査法人間でも見解の相違というのはありえます。税務や法律と同じで、解釈の仕方もそれぞれだからです。

そして、大規模な会社であれば「会計基準や実務指針に明記されておらず、考え方によって○とも×とも解釈できる」ような取引や実務が少なからずあるでしょう。

そういう一つ一つで、「A監査法人の時は○○でもOKだったけど、B監査法人は△△すべきだと指摘した」とか、そんなケースがありえます。そうなると、監査法人交代の都度、何らかの会計処理や開示の仕方が変わってしまう、というのがなきにしもあらずかな、と。訂正報告書の提出や過年度修正が増えるリスクも考えられます。

現場担当者は監査法人交代の都度、詳細な説明が必要

監査を効果的に、そして効率的に進めるには、監査人(監査する側)の会社(監査される側)のビジネスについての深い理解が必要です。そのため、監査を新規受嘱する場合には特に、監査人は会社のビジネスについてあれこれ質問します。

会社の現場担当者は、その質問に対して詳細に説明します。
監査人に誤解があっては困るし、自身の業務負荷を最小限にするためにも監査を効率的に進めてほしいからです。

で、監査法人の交代があるとどうなるかというと、交代の都度イチから説明しなければならなくなります。

同一の監査法人であれば、「以前担当していた○○さんに詳しく説明しましたよ」と言って、監査法人側にしっかりした引継ぎを促せますけど、監査法人の交代となると、そうはいかなくなります。監査上・会計上の重要なところについてはちゃんと引継ぎが行われるとしても、細かい部分についても完全に引き継ぐのは物理的に難しいです。

子会社が国内・海外に計何百社もあり、工場や営業所のような拠点が数百あり、親会社自体もいろんなビジネスをしていれば、そのディテール一つ一つをしっかり引き継ぐのがいかに大変かは想像に難くないかと。結局、現場担当者が監査法人交代の都度、イチから詳細に説明することになるかなと思います。

そうすると、現場担当者が大変です。通常業務があるうえに、監査法人への詳細な説明が必要です。一定周期のことだと割り切ってしまえばそれまでですが。

「監査する側」にとって

メリット

新規受嘱のチャンスが来るかもしれない

監査法人交代制を採用すれば、「次はウチが獲得できるかもしれない」というチャンスが一定周期で巡ってきます。今の制度上、連結子会社や関連会社もセットになることがほとんどだと思うので、「一攫千金」のようなチャンスかもしれません。

もちろん、これは下記のようにデメリットと表裏一体です……

監査におけるスタンスをアピールできるかもしれない

上記で、監査法人間での見解の相違もあり得る旨を書きました。

ということは、「ウチではこういう場合、この処理はノーです!」みたいな厳格さをアピールできるかもしれません。一般投資家にも決算報告を通じて知られるでしょうし、同業他社もそういう情報を(何らかの経路で)知るでしょうし。

「あの監査法人、厳しすぎるぞ…」と、他の会社から監査の依頼を回避されるリスクも孕んでいるかもしれないけど(苦笑)

「過去を引きずる」ことが少なくなる

監査を長いこと同一の監査法人が行っていると、必ず何らかの「過去から引きずっているもの」があります。

「あれ?これ、どうなんだろう?」と思っていても、「それは以前担当していた○○さんがOKした処理なので…」というものです。現場で監査業務を行っていると、はっきり「おかしい」とは言えないまでも「もうちょっとじっくり検討した方がいいのでは?」というものがあっても、前任者がOKしたものだと「う~ん、そうなのか…」となってしまいます。その前任者が今は組織でエライ人だったりすると、それはもう……(苦笑)

でも、監査法人の交代ならば「そんなのカンケーねえ!」(小島よしお風)になります。
「前の監査法人は前の監査法人。ウチはウチ」と言えるからです。

監査業務に対する緊張感が高まる

交代があれば、初年度はフレッシュな目で監査する必要があります。ここで漫然と監査をしていたら、後になって「あれ?」というのがあっても指摘することが難しくなります。

そのため、特に交代初年度はしっかり監査をすることになりますし、そんな機会が一定周期で発生することは業務における緊張感を一層高める点でメリットになるかと(デメリットでもある?)

また、交代になる直前も、後任の監査法人にしっかり引き継がないといけないし、 検討の余地のある会計処理や開示を安易に容認していたら、対内的にも対外的にも信用を損なう危険性があります。その点でも緊張感を持てるのではないかと思います。

(なんかデメリットっぽい書きぶりになっているような…)

デメリット

定期的に監査契約を失うことになる

上記のメリットとは表裏の関係ですが、定期的に監査契約を失うことになります。連結子会社・関連会社もセットで。

制度化されて、どの上場企業もそうなれば「代わりに○○社を担当してもらえばいいや」というのが成り立つかもしれませんが、今回この会社だけが先行して行う場合は、この会社を担当していたかなりの人員が突然「宙ぶらりん」になるおそれがあります。その辺のリスクを手当てする施策が監査法人側に求められるかな、と。

チャンスでもあり、リスクでもあると言えます。

大企業の監査は大手の監査法人しかできなくなりそう

一定周期で監査法人が交代になると、クライアントのビジネスへの理解が監査法人内に蓄積されなくなります(蓄積されても消滅します)。そうなると、ある程度の人員をすぐに動かせて機動的に対応できる監査法人だけが、大企業の監査を引き受けることになるかなと思います。

結果として、大企業の監査は大手の監査法人がローテーションで行うようになるのかなぁと。中小の監査法人に大企業の監査を行うチャンスが巡ってくる機会は少なくなるかなと思います(現状でも少ないのかもしれないけど、それ以上に)。

クライアントのビジネスや実務を把握するのが都度大変

「監査される側」のデメリットや上記にも書きましたけど、新規に監査する場合、その会社のビジネスをイチから理解しなければなりません。なので、「監査される」会社も大変ですが、「監査する」現場担当者も大変です。

「生き字引」的存在の担当者を養成できない

監査する側にも、される側にも、若手スタッフの頃から長年担当している「生き字引」的な存在が一人はいると思います。

「過去の経緯とか分からないことは、コイツに聞け」みたいな(笑)

一定周期で交代となると、そんな「生き字引」的存在の担当者を監査法人側で養成することが難しくなるでしょう。これは効率的に監査業務を進める観点からは支障になりそうだなと思います。

終わりに

メリット・デメリットを思いつくままに書いてみましたが、まだあるでしょうし、「それは違う!」と言われるところもあるでしょうし(苦笑)、やってみて新たに分かることもあるでしょう。

個人的には興味深いところです。
挙げたメリット・デメリットが、実際どうなのかも知りたいです。

ただ一方で、交代制を採用することでこの会社の信用が回復されるかと言えば、それは別なんじゃないかと。不正は、一義的には経営者や実行する組織の問題なので、実行する側(=経営者・組織)のマインドがどう変わるのか・どう変えるのかの方が重要だと思います。

The following two tabs change content below.
ダイ

ダイ

1975年1月生まれ。スポーツを見るのもやるのも学ぶのも大好きな41歳。サッカーではGKからFWまで全ポジションに対応(もちろんアマチュアレベル(笑))。ボクシングではディフェンス重視のアウトボクサー。フルマラソンはサブ4。東京マラソンに10年連続ハズレ中…BlackBerryとOAKLEYサングラスを愛用。 公認会計士 税理士

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする